出る、民宿 「他に何かご不明な点などございますでしょうか?」 年の頃は七十くらいだろうか、腰の曲がり方が少し陰気な印象を与える女将。皺が刻まれた手で部屋の鍵を手渡しながら、尋ねてきた。 「不明点というか、こんなこと聞くの、アレなんで…Read More » Posted on 2014年5月10日 by admin Categories: 妄想するショートショート
闇夜のサンプリング 人もまばらな最終電車を降り、人の気配もしない夜道を、ひとり歩いて家へと帰る。 ――なんだ、あの人影?―― 住宅街には明らかに場違いな黒服に身を包んだ人影が、三叉路の角にぼうっと浮かんだ。 「サンプリングしてますんで、よろ…Read More » Posted on 2014年5月5日 by admin Categories: 妄想するショートショート
新しい思い出の一日 「全部で4枚のDVDになりましたよ」 「ありがとうございます」 私は店員から紙袋を受け取り、温めるようにして胸に抱いた。 彼がこの世界からいなくなってから、もう10年。結婚から5年目のある日、彼は突然、この世から去ってし…Read More » Posted on 2014年4月27日2019年5月19日 by admin Categories: 妄想するショートショート
盗撮された写真 その時、目の前でフラッシュがたかれた。 少し酔ったサラリーマン風の中年男性は、カズキとアヤの座る座席の前に立ち、吊革に捕まるとすぐにスマートフォンを取り出し、まるで、うっかり誤動作させてしまったかのように装い、写真を撮影…Read More » Posted on 2014年4月19日 by admin Categories: 妄想するショートショート
リセット 君にこんな話をしても信じてもらえないかも知れないね。それくらいに嘘みたいな話だからね。でも、いいんだ。君にだけは、聞いて欲しいんだ。 ある一月も半ばに差し掛かった頃、僕は右手にロープ、左手に折りたたみ式の椅子を持って、自…Read More » Posted on 2014年4月12日 by admin Categories: 妄想するショートショート
消えないタバコ そこは二人の行きつけの居酒屋。男と女はカウンターに腰掛け、深刻そうに話をしている。どうやら別れ話のようだ。 「もうこれ以上、あなたとは一緒にはいられない。私の気持ちがもう、あなたには向いてないから」 男は静かにじっと前を…Read More » Posted on 2014年4月5日 by admin Categories: 妄想するショートショート
鈍色の扉 田崎は中小企業に勤める、うだつの上がらないサラリーマン。本人は一生懸命頑張っているつもりだが、ミスも多く要領も悪く、上司から怒られ続ける毎日。同期入社の同僚たちは順調に出世街道をひた走り、万年平社員の田崎は、同僚たちの背…Read More » Posted on 2014年2月22日 by admin Categories: 妄想するショートショート
大掛かりな仕掛け その時、俺は玄関のドアをかすかに開いて、廊下の様子を伺った。 ――なんだ、やっぱり誰もいないじゃないか……―― 俺の部屋の隣は、空室になっているはずだ。もう長いこと借り手がついていない。 今日の昼間も誰もいなかったはずな…Read More » Posted on 2014年2月15日 by admin Categories: 妄想するショートショート
笑劇竹取の物語 ほんの少し昔のある日、竹取の翁という者がいた。野山に入って竹を取っては、それをいろいろな事に使っていた。 その日も普段通り、野山に入って、せっせと竹を取っていると、少し先の方に根元が光る竹が一本あるのを見つけた。 はて、…Read More » Posted on 2014年2月8日 by admin Categories: 妄想するショートショート
ある物語のはじまり むかしむかしのある晴れた日の午後、山のふもとの村で暮らす少年は、一面覆われた雪に自分の足跡をつけて遊んでいました。少し硬くなりはじめた粗目雪に身体の重みをのせてみると、ザクッザクッと小気味の良い音が鳴るので、まるで楽器で…Read More » Posted on 2014年2月1日 by admin Categories: 妄想するショートショート