肩越しの愛 残業だけでは追いつかず、忌まわしい書類の束を抱えて帰宅した。スーパーで買った惣菜と発泡酒を流し込み、そそくさと机に座る。鼻腔をくすぐるむず痒い嫌悪感の原因が鼻毛にあると思い、手鏡を取って確かめた。 「ひぃっ!」 思わず腰…Read More » Posted on 2019年1月20日2019年1月20日 by admin Categories: 妄想するショートショート
落書き 島田は下りたシャッターの前に立ち、愕然とした。それはまるで、大切なものをハンマーで叩き壊されたような衝撃だった。 「おとうさーん! どうしたのー?」 ここは小さな商店街。島田が生まれ育ったのもここだ。シャッター化現象…Read More » Posted on 2019年1月1日 by admin Categories: 妄想するショートショート
お盆還り 「ちょっと、急いでくれませんか……」 いかにも気の弱そうな中年の男、サトナカが前を歩く恰幅のいい男に向かって言った。 「そんなこと言ったって、混んでるんだからしょうがねえだろ! 急いでんのは、おめえだけじゃねえんだ。辛…Read More » Posted on 2018年10月21日 by admin Categories: 妄想するショートショート
隣人 それは気の早い夏の暑さが訪れた、ある夜のことだった。 寝苦しさを感じた僕は、扇風機を取り出そうと、押し入れの中に身体を突っ込んだ。月明かりも届かない押し入れの中、目に飛び込んできたのは、壁から漏れる小さな光だった。 …Read More » Posted on 2018年8月26日 by admin Categories: 妄想するショートショート
あの広い世界にあこがれて 今日、ボクはここに異動になった。グルッと世界を見渡してみる。これまでは狭い社会にいたけれど、ここはもう少し広いみたいだ。 「おい、新入りが来たぜっ」 どこかからそんな野太い声が聞こえてきた。声の主を探してみると、ボク…Read More » Posted on 2018年7月28日 by admin Categories: 妄想するショートショート
ロシアンルーレット 隣の部屋からけたたましい銃声が鳴り響く。安っぽい木製の椅子に縛りつけられた直哉は、恋人を救えなかった無力さを握りつぶすように、腹の底から叫んだ。 「おい! 佳奈には手を出さないって約束しただろうがっ!」 きつく締めら…Read More » Posted on 2018年4月11日 by admin Categories: 妄想するショートショート
幻の迷店 「ほんまですか? ワシの店が選ばれたんですか? 何かの間違いやと思いますけど……」 「いいえ。厳選なる審査の結果、《いそ八》さまがミシュランの一つ星に選ばれましたので、こうして掲載交渉にお伺いいたしました」 細身のスー…Read More » Posted on 2018年3月11日 by admin Categories: 妄想するショートショート
温かい雪 告げられた病名は、進行性網膜萎縮症。すでにほとんど目が見えておらず、失明に至る日も近いのだとか。病を治してあげられない自分の無力さが憎かった。 テリーが家にやってきたのは、私が中学生のころ。寒くて雪の降る日だった。 …Read More » Posted on 2018年2月11日 by admin Categories: 妄想するショートショート
白い昆虫 「新学期がはじまったばかりなんだけど、みんなに寂しいお知らせがあります」 夏休みが終わり、教室には日焼けした生徒たちの元気な顔が並ぶ。陽気だったその表情も、突然の報告に曇りを見せる。小学校低学年の子供でも、異変には敏感…Read More » Posted on 2017年12月10日 by admin Categories: 妄想するショートショート
消された駅 「あ、あの……。切符落とされましたよ」 前を歩く青年のデニムのポケットから一枚の切符が落ちた。 高校生の私から見て少し年上に見えるその青年。交通系ICカードが主流の今、切符で電車に乗るなんてちょっと意外だった。 「あ…Read More » Posted on 2017年11月11日 by admin Categories: 妄想するショートショート