星が降る夜に いつかキミは僕に、「星がひとつも見当たらない、真っ暗闇の空を知ってるかい?」と尋ねてきた。知らない――と僕が答えると、キミは残念そうに目を伏せた。僕はいまでもこうして空を見上げながら待っている。あの日、キミと見た空がやっ…Read More » Posted on 2020年7月26日2020年7月26日 by admin Categories: 妄想するショートショート
転生家族 おい、貴志――と呼ぶ声に思わず反応し、俺は背後を振り返った。そこにはまだ二歳になったばかりの俺の息子、俊太が寝そべっている。まだ言葉もロクにしゃべれない。ましてや、俺のことを呼び捨てにするなんてあり得ない。何よりその声が…Read More » Posted on 2020年7月12日2020年7月12日 by admin Categories: 妄想するショートショート
軒下の三名様 仕事帰り。急な雨に降られ、商店の軒下に潜り込む。くたびれたスーツから埃っぽいにおいが漂う。 「おいおい勘弁してくれよなぁ」田崎はひとりこぼした。 目の前の道路を走る車が水しぶきをあげ、水はねがズボンの裾と靴を濡らす。舌打…Read More » Posted on 2020年6月28日2020年6月28日 by admin Categories: 妄想するショートショート
それはまるで魔法のように 少し早い梅雨が訪れ、傘が手放せなくなったある日のこと。変わらない日常が始まり、会社までの道のりを歩く。無数の傘の中から、人の波に逆らって歩いてくるひとつの傘を見つけた。その傘は男のそばまで来ると急に立ち止まり、手にした赤…Read More » Posted on 2020年6月14日2020年6月14日 by admin Categories: 妄想するショートショート
吊り橋効果 吊り橋に来れば彼女との仲が深まると、壮大な勘違いをし、今現在、田中美月さんと吊り橋の上に立っている。高所恐怖症の僕は美月さんの服の袖を掴んだまま、足を震わせている。風で揺れる吊り橋。自分の足の振動で、不規則に揺れる吊り橋…Read More » Posted on 2020年6月11日2020年7月26日 by admin Categories: 妄想するショートショート
血染めのコンパ 藤堂明香は苛立っていた。男の趣味が絶対に合わないと思っていたから佳代に声をかけたのに、「雅春くんの一択だわ」なんて言いやがる。男の取り合いをするために、この合コンを開いたわけじゃない。それなのに──。 「そろそろ席替えし…Read More » Posted on 2020年5月31日2020年5月31日 by admin Categories: 妄想するショートショート
わるもの 薄く開いた窓から、緑の匂いを連れた風が吹き込む5月の昼下がり。ブロンドの髪色をした母親と6歳の娘ステファニーは、仲良くソファに腰かけ、ゲームを楽しんでいた。 「ステファニー、このお花の花言葉はなにかな?」 母親は手にした…Read More » Posted on 2020年5月17日2020年5月17日 by admin Categories: 妄想するショートショート
真夜中の訪問者たち 木崎は真っ暗な部屋の中、家族で楽しく暮らした日々を思い返した。 「はぁ……あの頃に戻りたい」 切迫した状況とは裏腹に、木崎の目からはユルユルと涙がこぼれ落ちた。 若くして起ち上げた会社はしばらくして軌道に乗り、贅沢とは言…Read More » Posted on 2020年4月26日2020年5月6日 by admin Categories: 妄想するショートショート
Sakura Decadence 「で、それからどうなったの?」 米原美桜(みお)の友人の景子が、焼き鳥の串を頬張りながら尋ねる。 「唇にタレがついてるし」 「それはそれは、お恥ずかしいところを」 おしぼりを手に、景子が口元を拭う。 「勝人(かつと)と別…Read More » Posted on 2020年4月12日2020年4月12日 by admin Categories: 妄想するショートショート
決着は10秒後に スタブロに足をセットし、両手を地面につけながら全神経を集中する。かがんだ姿勢のまま視線を少し上げると、はるか遠くにゴールラインが見えた。たった100メートル先とは、とても思えないほどに果てしない。 この世界からすべての音…Read More » Posted on 2020年3月29日2020年3月29日 by admin Categories: 妄想するショートショート