踏みますね。とにかく踏みます。 キャップを被り直しながら、自慢げに彼は言う。 「どんなものでも？」 そうっすね、踏みますね。 「幸せを感じる瞬間は？」 踏んでるときっす。 「具体的には何を？」 韻っすね。自分、ラッパーな…Read More »

死後の世界を見られたと？ はい。具体的には、今が死後の世界なんですけども。 どういうことでしょうか？ 死後の世界は、生前の世界を逆再生する感じです。 要するに、死んでから生まれるまでを逆戻りする世界です。 男はそう言い残…Read More »

「岬にも結婚相手が見つかってよかった」 母が笑みをこぼす。 「おかあさん。実は私、好きな人がいるの──」 「バカなこと言わないの！　あなたのお相手はＡＩが導き出した最適な方なのよ」 「でも──」 「そんな子に育てた覚えは…Read More »

夫とは子どもを寝かしつけた後に愛し合う。 子ども部屋と寝室は離れているから、声が漏れても聞こえまい。 長期出張から帰ってきた夫の身体を求める。 欲求不満からか、激しく身体を重ね合う二人。 急にドアが開いた。 咄嗟に身体を…Read More »

今から歯を削っていきます。痛かったら右手を上げてください。 痒いって感じだったら、左手を上げてください。 熱い感じなら両手、ヒヤッとした感じなら両足を上げてくださいね。 では、削っていきます。 男は悩んだ。 この感覚の場…Read More »

この頃、充分な飯にありつけなくてさぁ。 あっ、俺？ 俺はポストの中に巣食う妖怪。 主食は、文字。 投函される手紙が減っちゃって、腹が満たされないんだよ。 そこで食の趣味を変えることを思いついた。 最近じゃ電子データがビュ…Read More »

そこは、ひと度迷い込むと二度と出られない、モノクロームの世界。 いくら進んでも、黒い壁にぶち当たる。 幾人の旅人がそこで命を落としたか。 しかし、ひとつだけ望みがある。 これはあくまでも噂だが── ある機械をかざすことで…Read More »

Ｍは妙案を思いつきニヤリとした。 日本中、片っ端から友達になってもらいＣＤを買ってもらえれば、ミュージシャンとして成功できる、と。 善は急げ。 Ｍは早速、行動に移した。 地下鉄の電車内。 隣席の女性に声をかけた。 「──…Read More »

飲み会が終わり、ホロ酔いで家路についた真希。 駅を出てからずっと、背後に人の気配を感じる。 どこまでもつきまとう足音。 マンションに着き、オートロックを開けると、背後から人影が迫ってきた。 あまりの恐怖に悲鳴をあげる真希…Read More »

「あっ！」 頭頂部に違和感。 ぜったいに鳥の糞だ。やられた！ 男は睨むように空を見上げた。 頭をもたげ、あんぐり開いた口の中に、あろうことか再び鳥の糞が。 反射的に口の中を唾液で満たし、糞もろとも道端に吐き出す。 見上げ…Read More »