その分子は、ふわふわと漂い、目的の場所へ。 それは彼の鼻腔の奥。 二度と離れないよう、そこに根を張った。 「ん？」 ふとした香り。小刻みに鼻息を吸い込む。 においの分子は、ありったけの想いを放出した。 「なぜだろう。別れ…Read More »

控え室に怒号が響く。 「あれだけ練習したのに、なんでちゃんとしゃべれないんだよ！」 パカパカ。音が外に漏れ出る。 スタッフが覗くと、そこには大道芸人の男。腹話術の人形を抱いている。 鬼のような剣幕で人形が吠える。 「次の…Read More »

戦場から戻った男は記憶を失っていた。 記憶が蘇ったのは、戦地の記録映像を見たときだった。 そこには銃を構える男の姿。狙いは友人に。 「そうだ……敵兵と間違えて俺は」 銃声が響く。倒れる友人。 「待てよ？　贖罪を背負った俺…Read More »

彼女はあらゆる人間を憎み、恨んでいた。 不幸になったのは奴らのせいだと。 彼女は森へ通い、木を見つけては藁人形を打ちつけた。 一本、二本と増えていき、やがてすべての木に打ちつけられた。 藁人形が打ちつけられていない、たっ…Read More »

捜査官の女は、猟奇殺人事件の容疑者である男に尋ねた。 「彼女を殺したのはあなたね？」 「いいえ」 嘘発見器は反応しない。うそだ?!　絶対にこいつが犯人だ。 「彼女の死は悲しい？」 「はい」 何度質問しても反応しない。 嫌…Read More »

カンカン照りの日が続き、少年は企んだ。 「お空の神様を泣かしてしまえば、涙の雨を降らせてくれる！」 少年は空に向かって悪口を叫びまくった。 彼の思惑通りに降り始めた雨。 しかし、空の神様は悪口に腹を立て、雨どころか雷鳴を…Read More »

その事故物件では３件も連続で住人自らが命を絶っていた。 そして新しい住人の身にも怪奇現象が襲う。 「早く命を落としてくれないかなぁ」 「なかなかしぶといですなぁ。もっと攻勢を強めましょう」 部屋の隅でヒソヒソとした声が響…Read More »

周囲を見渡しても、もう誰もいないし声もしない。 このままだと自分ははみ出し者だ。 どうしよう……。 空気は読むべきもの。 みんなと違うことは恥ずかしいこと。 でもさ？ じゃあ、僕はなぜこの世に生まれたの？ この命は何のた…Read More »

「う～ん？」 女は鏡を観て唸った。 自分の顔が気に入らない。目も鼻も口も全部。 整形を繰り返すが、納得が行かず次から次へ。 すっかり原型を失ってしまった女の顔。 そして女は、今回が最後の整形手術と誓った。 カウンセリング…Read More »

人間は産声をあげた瞬間から、その一生をカプセルの中で過ごす。 身動きひとつしないまま。 肉体の成長は管理システムが制御。 脳にはシステムがインストールされる。 望むがまま、仮想空間で生きられる。 文明が進化し何でもできる…Read More »