隣人 それは気の早い夏の暑さが訪れた、ある夜のことだった。 寝苦しさを感じた僕は、扇風機を取り出そうと、押し入れの中に身体を突っ込んだ。月明かりも届かない押し入れの中、目に飛び込んできたのは、壁から漏れる小さな光だった。 …Read More » Posted on 2018年8月26日 by admin Categories: 妄想するショートショート
あの広い世界にあこがれて 今日、ボクはここに異動になった。グルッと世界を見渡してみる。これまでは狭い社会にいたけれど、ここはもう少し広いみたいだ。 「おい、新入りが来たぜっ」 どこかからそんな野太い声が聞こえてきた。声の主を探してみると、ボク…Read More » Posted on 2018年7月28日 by admin Categories: 妄想するショートショート
ロシアンルーレット 隣の部屋からけたたましい銃声が鳴り響く。安っぽい木製の椅子に縛りつけられた直哉は、恋人を救えなかった無力さを握りつぶすように、腹の底から叫んだ。 「おい! 佳奈には手を出さないって約束しただろうがっ!」 きつく締めら…Read More » Posted on 2018年4月11日 by admin Categories: 妄想するショートショート
幻の迷店 「ほんまですか? ワシの店が選ばれたんですか? 何かの間違いやと思いますけど……」 「いいえ。厳選なる審査の結果、《いそ八》さまがミシュランの一つ星に選ばれましたので、こうして掲載交渉にお伺いいたしました」 細身のスー…Read More » Posted on 2018年3月11日 by admin Categories: 妄想するショートショート
温かい雪 告げられた病名は、進行性網膜萎縮症。すでにほとんど目が見えておらず、失明に至る日も近いのだとか。病を治してあげられない自分の無力さが憎かった。 テリーが家にやってきたのは、私が中学生のころ。寒くて雪の降る日だった。 …Read More » Posted on 2018年2月11日 by admin Categories: 妄想するショートショート
白い昆虫 「新学期がはじまったばかりなんだけど、みんなに寂しいお知らせがあります」 夏休みが終わり、教室には日焼けした生徒たちの元気な顔が並ぶ。陽気だったその表情も、突然の報告に曇りを見せる。小学校低学年の子供でも、異変には敏感…Read More » Posted on 2017年12月10日 by admin Categories: 妄想するショートショート
消された駅 「あ、あの……。切符落とされましたよ」 前を歩く青年のデニムのポケットから一枚の切符が落ちた。 高校生の私から見て少し年上に見えるその青年。交通系ICカードが主流の今、切符で電車に乗るなんてちょっと意外だった。 「あ…Read More » Posted on 2017年11月11日 by admin Categories: 妄想するショートショート
乙女の恋 せっかくの夏休みなのに、おかあさんって酷い。買い物にも行けないし、彼氏にだって会えない。まさか、こんな田舎でアルバイトすることになるなんて! 東京から電車を乗り継いで約5時間。母方の親戚が営む質屋は、映画のセットを思…Read More » Posted on 2017年10月8日 by admin Categories: 妄想するショートショート
縁側花火 「おっ、と」 老体は、不格好に足を滑らせた。 地上からおよそ200メートル。とあるビルの屋上。コンクリートの出っ張りに二つの老体が並ぶ。 「すっかり身体の自由がきかなくなったわ」 年かさの老体がこぼす。 「ワシらも…Read More » Posted on 2017年9月18日 by admin Categories: 妄想するショートショート
消される存在 「はい、S警察です」 「夜分遅くにすみません。ウチの夫が、ここ数日、家に帰らなくて……。携帯に電話してもつながらず。もし行方不明にでもなっていたらと心配になって……」 「なるほど。ご主人のパーソナルナンバーをお伝えいただ…Read More » Posted on 2017年8月11日 by admin Categories: 妄想するショートショート