男は歓喜した。 「これが世界にひとつしかない薬草か！」 過酷な山道や数々の試練を思い出し涙した。 「これで母の病を治せるぞ！」 山を下りる途中、不運にも足を踏み外し、崖下へ転落。 身体が言うことをきかない。 「母さん………Read More »

失くしたものが、ひょっこり現れることがある。 もう二度と現れないと諦めていたものが。 「やぁ。久しぶり」 夏の終わり。 あの日、失くした君の命。 目の前に、ひょっこり現れる。 君のいない日々を悲しみ続ける必要なんてなかっ…Read More »

ショーウィンドウに映った姿をチラッと眺める。 気になり前髪を直す。 「ふふふ。前髪が気になりましたか」 奇妙な男が耳元で囁いた。 病院の待合室。 診察の順が訪れ名前が呼ばれる。 立ち上がり歩き出す。 「ふふふ。今、周りの…Read More »

「海って恥ずかしがり屋さんだね！」 「どうして？」母が尋ねる。 「寄せてもすぐに返すから」 「でもね、たまに勇気を振り絞っちゃうときがあるのよ」 「勇気？」 少女の後ろに高い波が迫る。 「その勇気は恥ずかしがり屋さんを誘…Read More »

「ねぇ、ママ？」 「なぁに？」 「人間も犬も猫も、愛し合うときは、くっつくんだよね？」 「そうね」母は答えた。 「象も馬もパンダも？」 「そうよ。愛し合うときは、みんなくっついて寄り添うのよ」 「よかったぁ。じゃあ、あの…Read More »

迷子のお知らせをいたします。 山村美咲さま。６階インフォメーションセンターにて、迷子をお預かりしております。 美咲さまにフラれた男性が露頭に迷い、人生の迷子になっておられます。 深い反省の色を浮かべていらっしゃいますので…Read More »

あの日、僕を勇気づけてくれたこの帽子のせいで、まさかこんなことに巻き込まれるなんて――。 「お前が犯人なんじゃねぇの？」友人がからかう。「そんなわけないだろ！」むきになって否定する僕。 ここ数日、どうも様子がおかしいと思…Read More »

「アンタなぁ、そんな男と付き合ったらアカンわぁ！　やめときなさい！」 高齢者宅にお弁当を配るのが私の仕事。特に理由もなく始めた宅配弁当だけど、人生の大先輩たちとこうして話ができるのは楽しかった。なかでも、このおばあちゃん…Read More »

それは電話が発明されるずっと以前のはなし。 メッセージは伝言屋が運んでいた。 「４丁目の妙子に伝言を」 「へい！」 「彼女のことを愛していると伝えてくれ」 クソッ！　恋敵かよ。 実は伝言屋も妙子のことを愛していた。 再び…Read More »

「この問題わかる人～？」 私は教壇から問いかける。 生徒からの返事はない。 「難しかったかな？」 黒板に解説を書き込む。チョークの音がコツコツ鳴る。 「じゃあ今日の授業――いや、最後の授業を終わります」 起立、礼、さよう…Read More »