ママとおかたづけ

「ママ! Eはどこにお片づけすればいいのーー?」
 キッチンに立つ母親は、グツグツと煮立つ鍋を見つめながら、娘の声を背中で聞いている。
「なになにー?」
「Hiの場所もわからないよぉ~」
「ちょっと待ってねー」
 娘の困った顔を思い浮かべ、母親は鍋にフタをする。そして、ガスコンロのつまみをひねり、火を強めた。
「どれどれ?」
 エプロンを外しながらリビングへ。そこではちょこんと正座した娘のシオリが、片づけに夢中になっている。
「ママ? Meはふたつあるって言ってたよね? ひとつはお片づけできたんだけど、もうひとつはどれ?」
「おりこうさんのシオリちゃん。ママも手伝ってあげるわね。さて、どこかしらねぇ?」
 絨毯の上に散らばったものたちを掴み上げ、教えるように仕舞ってみせた。
「ここが胃で、ここが肺よ」
「さすがママ! もうひとつのMeはこれでいいの?」
 娘は手にした球体を手のひらに乗せた。
「それはビー玉でしょ? だから、答えは脳。あっ、Noよ。目のところにちゃんとハマるやつを探そうね」
「じゃあ、これか!」
「正解!」
 すぐそばに転がっていた目玉を拾い上げ、満面の笑みを浮かべる娘。
「シオリちゃん、ごめんね。ママのことを悲しませた裏切り者のパパにお仕置きして、身体をバラバラにしちゃったばっかりに」
 我が子の頭を優しく撫でる。娘もそれにならい、幼い手で母の頭を撫で返した。
「じゃあ、ママと二人でお片づけしちゃいましょう!」
 鼻歌をうたいながら、手際よく身体のパーツを片づけていく。
「やったぁ! 終わった!」
 娘は飛び上がり、母に抱きついた。
「よくできました!」
「あれ?」娘が小首をかしげる。
「どうしたの?」
「お股のところが見当たらないけど、どこかなくしちゃったのかな?」
「ほんと、どこにいっちゃったのかしらねぇ?」
 愛娘を抱きしめながら、母親は後ろに目をやる。キッチンでは煮立つ鍋のフタが、暴れるようにゴトゴトと音を立てていた。

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