「おい、知ってるか?ツイッターにまつわる都市伝説ってやつ」
クラスメイトのSがコソコソとボクの耳もとで、そう呟く。
「いや、知らないよ、そんなの。都市伝説もクソもあるのかよ、ツイッターに?」
「それがあるらしいんだよ」
「へぇ~。そうなんだ、もったいぶらないで、教えてくれよ…」
ツイッターなるインターネットのサービスは、今、自分が何をしてるのか?をつぶやき、そのつぶやきをもとに、人々とコミュニケーションを取る、といったサービスだ。
そしてツイッターの特徴は何といっても、140文字という短い文字数に制限された中で、自分自身のつぶやきを作成し発信するところ。そう、ツイッターでは、一回のつぶやきに、140文字しか入力できない。そう、140文字。
Sがボクに教えてくれたツイッターの都市伝説、それはなんと、ツイッターの140文字を超えた書き込み、つまりは141文字目以降を入力できるいうもの。
ただ単に、141文字目以降を入力できるってだけなら、ただのサービスのバグなんじゃないのか?ってところで終わるんだけど、それだけじゃなく、Sが言うには、
「なんでも、ツイッターの141文字目以降のつぶやきを入力すると、そのつぶやきが、実際に現実となって巻き起こるらしいぜ。つまりは、そこに願いを書き込めば、その願いが叶うってことらしい…」
そんなはずないだろうと、半ば疑いながらも、ボクにも叶えたい願いがないわけじゃない。またそれが、叶いそうにない願いだからこそ、余計に、都市伝説の力を借りてでも、叶えたい。
ボクは早速、インターネットにアクセスし、ツイッターのつぶやき入力画面を開く。
もちろん140文字目までは、いつもと何ら変わらないつぶやきを入力する。よし、ちょうど140文字を打ち終えたぞ。ここからだ。
そう意気込み、ボクはパソコンの画面を睨みつけ、固唾を飲みながら、141文字目を入力し始めた。
ボクがその日、141文字目から入力したつぶやきは、こんなものだ。
『同じクラスのユミと朝の登校中の曲がり角で偶然ぶつかる』
にひひ、控えめだけど、ウワサが本当かどうか試すにはちょうどいい感じだろう。そんなことを考えながら、パソコンの電源を落とし、眠りについた。
ドンッ!
いてて…。なんなんだよ、こんなすごい勢いで曲がり角を曲がってくるなんて。まったく失礼なヤツだ!
あっ?少し苛立ちながら驚くボクの目の前にいるのは、ユミ!
ユミはクラスの中でもズバ抜けて可愛い女の子。常に可愛い女子のグループの中にいるので、ボクなんかが話かけたり、ましてや遊んだりできる存在ではない。
そのユミが今、目の前で申し訳なさそうに、ちょっと恥じらいながら、こっちを見つめてる。
「ご、ごめんねっ!ケガしなかった?ホントにごめんなさい…」
う、うわぁ。なんて可愛いんだ…。こんな至近距離でユミを見たことがなかったもんだから、ボクは舞い上がってしまい、だ、だ、だ、大丈夫だす、だす?です。はい。などと、どもりながら、その場を去ってしまった。
おいおい、本当に願いが叶うじゃないか。
そう思い、味をしめたボクは、次から次へと、ユミに関して、思いつく願いを、ツイッターの141文字目以降に書き続けた。
ユミと二人きりで話すことから始まり、ユミと登下校したり、デートしたり、そしてそして、キスしたり。
そしてついにこの願いを書く日が来た。
そう、今日ボクは、ツイッターの願いのチカラを借りて、ユミとセックスすることになる。あの憧れのユミと、ボクがセックスするなんて。こんなにコトが上手く運んでいいものか。でも、このツイッターのチカラは、今までボクの願いを全て叶えてきてくれた。
そう心の中でつぶやきながら、ボクは汗でべとつく手をキーボードに乗せ、まずは140文字のつぶやきを入力する。願いの大きさに緊張し、普段なら何気ないつぶやきを入力するところだが、今日はそんな余裕すらない。もう適当に、なぜか『ヒマ』の二文字を連続で入力し、140文字を埋める。そして、141文字目から、願いを入力した。
『ユミと今からセックスする』
ボクは家を出た。もう、心ここにあらず。ソワソワし、ドキドキし、道の向こうからユミが歩いてくるのを、ボーッと眺めている。あぁ、ボクもついにユミとセックスできる日が来たんだなぁ。
あまりの嬉しさに、頭の中では、何の想像も妄想もできないまま立ち尽くしていると、道の向こうから人の歩いてくる気配がした。
ユミだな。そう思い、さらに胸を躍らせる。
すっかり日の暮れた薄暗い道の向こう、人のシルエットが見えた。ついに、ついに。
どんどんと近づいてくるシルエット。
ん?
なんだか今日のユミは、普段より大きく見えやしないか?
そう普段より大きめのシルエット、いや、大きめというか、とてもとても大きなシルエット、いわば巨漢のシルエットが、どんどんと近づいてくる。
ど、どういうことだっ?
ドドーン!と、ボクの目の前に現れたのは、クラスの中で、一番の巨漢、そして不潔で有名な、嫌われ者の女子。な、な、なんで、マユミが…?マ、ユミ?マユミ?マ、マ、マ!?
ボクはマユミに抱えられ、道路の暗がりへと連れて行かれた。もがくように抵抗しても、力では全く及ばない。なんといっても相手は、クラス一の巨漢、マユミなのだから。
ボクの部屋のパソコンの画面には、ツイッターの入力画面。ボクがさっき打ち込んだつぶやきが表示されている。『ヒマ』を連続で入力した画面。いや、入力したはずの画面。
そう、あまりに緊張し、あまりに適当に文字をタイピングしたもんだから、最後の『ヒマ』の部分が、『ヒヒマ』となっており、最後の『マ』が141文字目に、はみ出してしまっていたのだ。
だから、141文字目が、『マ』で、その後にボクの願い、『ユミと今からセックスする』