僕はベッドの上で腰を振っている。
ギシギシときしむベッドの上で、女性の上に被さり、一心不乱に腰を振っている。
アノ部分がとても締めつけられ、興奮が脳天を突く。
摩擦が激しくなり、それに呼応するように、快感も絶頂へと向かう。
さぁ、果てる、果てる。頭が真っ白になり、僕は、果てた。
ん?
あれ?
普通なら、果てると同時に出るもの、それが出ない。
全く出ていない。な、なぜだ、おかしい。
果てると同時に出るもの、あの白濁とした、あれが出ない。
そう、僕はあの日から、果てると同時に出るアレが、逆流する病気にかかってしまったのだ。
逆流?どういう意味だ?と思われるかも知れない。それは当然のことだ、アレが逆流だなんて、理解に苦しむはず。
ひとことで言い切ってしまうと、逆流なんて単純なもんじゃないんだ。アレが出るとき、そう、アレが逆流し、なんと、瞳、そう瞳から涙として流れてくるんだ、果てると同時に出るアレが。
きっとみんなは信じられないことだろう。だって、果てると同時に出るアレが、普通なら勢いよく飛び出していくところを、なんと逆流して、さらには瞳から涙として流れるなんて、ぜったいに信じられないと思う。
でも、それを目の当たりにする女性たち、つまりは、僕が上に被さって、普通なら、果てると同時にアレを出させてもらう女性たちにとっては、その光景をモロに目の当たりにするもんだから、それはそれは奇妙な、怪奇な目で見られるんだ。
だって、セックスのたびに、泣くんだもん。白濁としたやつを、瞳から流してさ。
その病気にかかって以来、数人の女性とは付き合えたが、なんとも結局、果てるときのソレを体験してしまうと、近寄りがたくなるらしく、長くは付き合えないばかりか、そんなこんなが続いた今では、彼女というもの、そのものが出来にくくなってしまって、淋しい日々を過ごしている。
そんな僕が、今日はなんと、狙っている女性とデート。しかも、今日で付き合えるかどうかが決まる感じの大切な日。かねてより彼女が観たがっていた映画を二人で観にきている。
恋愛ものの映画らしく、インターネットやテレビでも、ラストシーンの悲しい結末が評判になっており、彼女も僕もそれを楽しみにやってきた。
デートの緊張感もそこそこに、二人は映画のストーリーにくぎ付け。
そしてスクリーンでは、ラストシーンが近づく。
なんとも結ばれるはずだった二人の男女が、今やお互いの意志に反して、別れを決意しようとしているではないか。本当ならば、愛し合い、抱きしめ合い、永遠の愛をも誓わんばかりに引き寄せ合う二人にも関わらず、運命とは皮肉で、この二人に別れを迫るなんて。
スクリーンでは女性が、凛と作った笑顔を男性に向け、
「さようなら」
透き通るような声で、そう告げた。
ジーン。
なんていいシーンなんだ。胸が締め付けられ、心がジーンと染み入る。
ジュン。
ん?
心がジュンと染み出す。ジュン?
ふと自分のチノ・パンツの股間あたりを見ると、染みが、ジュン。
な、なんだ?この染みは?
ま、まさか…?
もしかして、果てると同時に出るアレが涙として流れ出るということは、涙の方は逆に、果てると同時にアレが出るところから出るということなのか?
そう、そこには、感動の涙が、まるで、果てると同時に出るアレのように、パンツに染み出している。
ちょ、ちょっと、これ見られちゃ、マズいって…。
ふと隣に目をやると、彼女。果てると同時にアレが出るあたりをジーッと見つめて、大声で、
「このヘンタイ!」
と叫び、館内の客の注目のマトに。
まさかの女性の叫び声に、全ての客がスクリーンではなく、彼女の方を見つめる。いったい、何が起こったんだと、興味津々に。
そして彼女は、おもむろに席を立ち、僕の方を見下ろす、いや、見下すように、
「さようなら」
凛と眉間に浮き出た怒りのシワと、彼女を作ることに失敗した無念さに、思わず僕の瞳からは、本来の涙が、ジーン。
「あっ、治った…」