ここはオフィス街で、やたらと感情がないビルばっかりが立ち並ぶもんで。
その隙間から覗く夕焼けの色が、
沈み始めの憂鬱なオレンジと、
まだ不慣れな夜の群青とが相まった、
どうにも溶け入らない色合いが、ひどく汚ったねえもんで、思わず笑ってしまう。
ここはオフィス街で、どこに向かうのか、目も虚ろな人たちが大勢。
ゴツゴツと硬い足音で踏み鳴らしながら、
まるで機械仕掛けの軍隊のように、
何の指令も受けてないのに、同じ方向に向かって歩いていくもんで、
思わず笑ってしまう。
宝物のない毎日は、
枯れて枯れて、潤いがちっともないもんだから、
それを手に入れようと、目だけはしっかりと潤ませて、
ちゃんと前に歩いて行ける。
宝物を手にした毎日は、
それを失うことと、それが消えてしまうことと、
それを誰かに盗られやしないかってことを、
心配し、不安になって、やたらめったら後ろばかりキョロキョロしてしまう。
ここはオフィス街で、みんな得意の論理や理論や倫理でもって、
自分の居場所を必死になって守ろうとしてる。
何も育たないアスファルトに、何度も何度も水をやって、
他人の頭を踏み台にしながら、もっと高い景色はないものかと焦っている。
宝物のない毎日は、
その欠片と思しき輝きを少し拾ってみたりして、
穴だらけのポケットにしまい込んで、
ちょっと笑ったり、ちょっと愉快になったりする。
宝物を手にした毎日は、
抱えきれなくなった幸せの中から、
捨てなきゃいけないものや、置いてかなきゃならないものに悩んで、
立ち止まっては、自分の両手ばかりを眺めている。
手をつなごう。
手をつなごう。
手をつなごう。
このままどんどんと、どこまでも行こう。
決して美しくない悲しみは、決して美しくない喜びにしか変えられないけど、
ほら、
ゴトゴトと揺れて揺れて、
車窓からは、あんなにちっぽけなオフィス街が見える。
結局、宝物なんて、どこにもなかったね。
ほら、
今、こうして、手をつないでいる。
このままどんどんと、どこまでも行こう。
車窓からは、お月様が、あんなに立派に見える。
車掌さん、この列車は、どこ行きですか?