周りは家族連れやカップルばかりの中、ひとりぽつねん、寿司を食っている。
いつもそう、休みの日には、ひとりで回転寿司を食べにくる。
もともと寿司が好きってのもあるけど、この色とりどりの寿司ネタが、皿に乗ってグルグルと回転している様子を眺めるのも、嫌いじゃないなぁ。
それにしても、隣のテーブルのカップルなどは、さぞ楽しいのだろうな。二貫乗っている寿司を、ひとりひとつに分けて食べたり、ガリを皿に盛ってあげたり、パネルでお互いの食べたい寿司を注文し合ったり。まったくデート気分も、いい加減にしてくれよ。
そんなことを心の中でブツブツ言いながら、回ってきたビントロをパクリ。
パネルで寿司を注文すると、比較的鮮度の高いネタが来ることが多い。そりゃそうか、注文後に作りだしてるんだもんな、レールを回転しているやつらとは、わけが違うわな。
でも、やっぱり、レールを回るやつらが、好きだったりする。それを楽しみに来店してるっていうのも、あるかな。
そんなことをボーっと考えていると、妙な感じのマグロがレールを回ってきた。
あまりにもボーっとしてたのと、レールに目をやったのが一瞬だったため、その妙な感じを見逃してしまった。
今の、なんだったんだろう?再びここまで回ってくるだろうか?途中で誰かに取られやしないだろうか?それにしても、気になるなぁ。
しばらく不自然にレールを次々に過ぎていく寿司をボーっと、それでいて真剣に見つめる。なんだかもう、食欲がどこかに行ってしまって、さっきの違和感のあるマグロの皿が来やしないか、そればかりで、そわそわ。
ん?あれっぽくないか?
タマゴが二皿続いた向こう側、とうとう先ほどの『違和感マグロ』がやってきたようだ。遠めに見ても、やっぱりなんだか違和感がある。何かが、はみ出しているような…。
誰も取るな、誰も取るな、そう祈りながら、その『違和感マグロ』が目の前にやってくるのを待った。幸いにも誰もそのマグロは手に取らず、静かに黙って目の前に。慌てず、しっかりとそのマグロの乗った皿を掴み取り、カウンターの上に。
何かがはみ出しているように見えたもの、それは紙切れだった。マグロのネタとシャリとの間に、紙切れが挟まっていたのだ。どうりで両サイドに羽が生えてるように見えたもんだ。そろり、その紙を抜き取ってみる。
「左斜め前の座席を見て」
そう記されている。え?どうゆうこと?わけが分からず、でも無意識のうちに、左斜めの座席の方に目をやった。なぜだか誰にも気づかれないように、そっと。
するとそこにはひとりの女性。回転寿司のカウンターに座っているのが、不自然なくらいにキレイな女性。なんであんなにキレイな女性が、しかもカウンターにひとりで座っているのに今まで気づかなかったんだろう?彼女の方を向いたことを感じたのか、こちらには目をやらず、少し伏し目がちで、少し微笑んで、ペコリと。
おぉ!なんだ、今日は!これは何が起こっているんだ?と、思い、皿の上に残ったもう一貫のマグロに目をやると、なんとこちらにも紙が挟まっているじゃないか。そこはもう気になって、気になって、一気に紙を引っこ抜いた。
「付き合ってください」
どーーーーーん!付き合ってください?あんなキレイな女性が、僕と???どーーーーん!
僕はとてつもない勢いで、マグロを口の中に放り込みほおばった。しかも二貫同時に。そして、僕の目からは涙。僕の目からは、涙。まるでネタのような告白に、嬉しさのあまり泣いてるのかって?まさか、ワサビのせいさ。ワサビがしみたせいだよ。そんな言い訳を自分にしながら、テーブルの上の紙切れ二枚を、その手のひらに、ぎゅっと、握った。